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東京地方裁判所 昭和50年(特わ)2625号 判決 1976年3月19日

本籍

千葉県匝瑳郡光町宮川九、三三三番地

住居

東京都渋谷区神宮前六丁目二五番八号 神宮前コーポラス七一〇号 林田三吉方

無職

早川洋

昭和一三年一二月一五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について当裁判所は検察官清水勇男出席のうえ、審理し次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役八月および罰金一、三〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都渋谷区神宮前六丁目二五番八号神宮前コーポラス七一〇号に事務所を置き、紳士服の卸売業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て

第一  昭和四七年一月一日から同年一二月三一日までの間、右事務所において、取引についての証憑書類を一切破棄し、総勘定元帳などの商業帳簿を一切作成せず、売上げはすべて仮名の普通預金口座に入金し、その一部を払い戻して仮名の定期預金を設定するなどしてその所得の秘匿工作をしたうえ、昭和四八年三月一五日の納付期限までに所得税確定申告書を一切提出しないで右期限を徒過し、もつて不正の行為により、右年度分における実際所得金額三、五九五万九、〇二二円に対する所得税額一、七六一万七、五〇〇円を免れ(修正損益計算書および税額計算書は別紙(一)(三)のとおり)

第二  昭和四八年一月一日から同年一二月三一日までの間、右事務所において、前記と同様の所得の秘匿工作をしたうえ、昭和四九年三月一五日の納付期限までに所得税確定申告書を一切提出しないで右期限を徒過し、もつて不正の行為により、右年度分における実際所得金額六、六七二万〇、八五四円に対する所得税金三、七七一万八、〇〇〇円を免れ(修正損益計算書および税額計算書は(二)(三)のとおり)

たものである。

(証拠の標目)

判示全般の事実につき

一、 被告人の収税官吏に対する各質問てん末書(七通)および検察官に対する供述調書

一、 峰功の収税官吏に対する昭和五〇年四月一四日付、五月一二日付各質問てん末書および検察官に対する供述調書

一、 古川勝利の収税官吏に対する昭和五〇年五月一二日付質問てん末書

一、 藤井賢三の収税官吏に対する質問てん末書

一、 竹居義男の収税官吏に対する質問てん末書

別紙(一)(二)の各勘定科目につき

一、 前掲被告人の収税官吏に対する昭和五〇年五月一〇日付質問てん末書(別紙(一)(二)の各番号<1>現金につき)

一、 大蔵事務官作成の当座預金各年末残高調査書(別紙(一)(二)の各番号<2>当座預金につき)

一、 大蔵事務官作成の普通預金調査書

(別紙(一)(二)の各番号<3>普通預金につき)

一、 大蔵事務官作成の積立定期預金各年末残高および預金利息調査書(別紙(一)(二)の各番号<4>積立預金につき)

一、 大蔵事務官作成の各取引銀行の定期預金残高および利息合計調査書(別紙(一)(二)の各番号<5>定期預金につき)

一、 大蔵事務官作成の生命保険積立金各期末残高調査書(別紙(一)(二)の各番号<6>生命保険積立金につき)

一、 大蔵事務官作成の新計画保険系統調査書(別紙(一)(二)の各番号<7>新計画保険につき)

一、 大蔵事務官作成の売掛金各年末残高調査書(別紙(一)(二)の各番号<8>売掛金につき)

一、 大蔵事務官作成のたな卸商品調査書(別紙(一)(二)の各番号<9>たな卸商品につき)

一、 大蔵事務官作成の未収金調査書(別紙(一)の番号<10>未収入金、別紙(二)の番号<12>未収入金につき)

一、 大蔵事務官作成の仮払金調査書(別紙(二)の番号<10>仮払金につき)

一、 大蔵事務官作成の前渡金調査書(別紙(二)の番号<11>前渡金につき)

一、 大蔵事務官作成の貸付金調査書(別紙(一)の番号<11>貸付金、別紙(二)の番号<13>貸付金につき)

一、 大蔵事務官作成の「車両および減価償却」費調査書(別紙(一)の番号<12>車両、別紙(二)の番号<14>車両につき)

一、 大蔵事務官作成の保証金および家賃等調査書(別紙(一)の番号<13>敷金、別紙(二)の番号<15>敷金につき)

一、 大蔵事務官作成の出資金調査書(別紙(一)の番号<14>出資金、別紙(二)の番号<16>出資金につき)

一、 大蔵事務官作成の事業主貸勘定調査書(別紙(一)の番号<15>事業主貸勘定、別紙(二)の番号<17>事業主貸勘定につき)

一、 大蔵事務官作成の未決済小切手調査書(別紙(一)の番号<16>未決済小切手、別紙(二)の番号<18>未決済小切手につき)

一、 大蔵事務官作成の支払手形各年末残高調査書(別紙(一)の番号<17>支払手形、別紙(二)の番号<19>支払手形につき)

一、 大蔵事務官木庭忠義作成の「仕入および買掛金」調査書および大蔵事務官石井鉄雄作成の「仕入および買掛金」調査書(別紙(一)の番号<18>買掛金、別紙(二)の番号<20>買掛金につき)

一、 大蔵事務官作成の借入金調査書(別紙(一)の番号<19>借入金、別紙(二)の番号<21>借入金につき)

一、 大蔵事務官作成の未払金(報奨金)調査書、外注費調査書、公租公課調査書、水道光熱費調査書、燃料費調査書、修繕費調査書、広告宣伝費調査書および雑費調査書(別紙(一)の番号<20>未払金、別紙(二)の番号<22>未払金につき)

一、 大蔵事務官作成の普通預金利息調査書および「各取引銀行の定期預金残高および利息合計」調査書(別紙(一)の番号<22>預金利息(分離課税)、別紙(二)の番号<24>預金利息(分離課税)につき)

一、 大蔵事務官作成の給与所得調査書(別紙(一)の番号<23>源泉所得税額、番号<24>給与所得控除、および内訳のうち給与所得、別紙(二)の番号<25>源泉所得税額、番号<26>給与所得控除および内訳のうち給与所得につき)

一、 大蔵事務官作成の一時所得の収入金額調査書(別紙(一)の番号<25>一時所得、別紙(二)の番号<27>一時所得につき)

一、 大蔵事務官作成の譲渡損失調査書(別紙(一)(二)の各譲渡損につき)

(法令の適用)

一、 該当罰条と刑種の選択

判示第一、第二の事実 所得税法二三八条

(懲役刑と罰金刑併科)

一、 併合罪加重 刑法四五条前段

懲役刑につき 刑法四七条本文、一〇条

罰金刑につき 刑法四八条二項

一、 換刑処分 刑法一八条

一、 執行猶予 懲役刑につき刑法二五条一項

(情状について)

被告人は一〇年位前から個人で紳士服の卸売業を営んでいたが、その営業方法は十数名の親方と称する者に紳士服を販売し、その親方が助手と共に各地を行商しながら小売し、代金を被告人の仮名預金に送金入金するもので、右方法により判示のとおり相当の利益を得ていたものであるが、被告人が金額出資者である婦人服小売業株式会社橘については担当者に帳簿を記帳させ、税理士も関与させていたが、個人の事業所得が大部分を占める本件所得については当初納税申告、納付手続が複雑で面倒であるとの気持から申告せず、次第に収入が多くなるに従いますます申告しづらいといつた状態となり、あえて帳簿類を一切記帳せず、メモ類も破棄して資産を仮名預金として蓄積する方法により、他からの所得のは握を困難にさせる行為を行なつて本件脱税に及んだものである。まつたくの無申告でほ脱額も決して少ないとは言えないが、本件摘発後十分反省して修正申告をしその納付のため、すでに蓄積した資産をほとんど失なつていることなど諸般の情状を考慮して主文のとおり量刑する。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 安原浩)

別紙(一)

修正貸借対照表

早川洋

昭和47年12月31日

No.

<省略>

<省略>

別紙(二)

修正貸借対照表

早川洋

昭和48年12月31日

No.

<省略>

<省略>

別紙(三)

税額計算書

早川洋

<省略>

(注1) 35,571,000×60%=21,342,600

21,342,600-3,284,000=18,058,600

(注2) 66,303,000×70%=46,412,100

46,412,100-8,284,000=38,128,100

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